『君の名は。』三葉はなぜ父を説得することに成功したのか。宮水俊樹という人物
映画『君の名は。』では、落ちてくる彗星から糸守町の住民を守るべく安全な場所へ避難させようと三葉を始めその周辺の人物が奮闘します。
避難がスムーズにいかず、ネックとなっているのは三葉の父となります。
三葉の中に入った瀧が一度糸守町の町長である宮水俊樹(三葉の父)の元に「彗星が落ちるから住民を避難させてくれ」と頼みに行きますが、当然落ちるなんて確証もないもののために住民を避難させるような父ではない。
これは厳格な三葉の父に限らず誰が町長であってもそんな戯言を聞くわけにはいかないでしょう。
しかし、今度は〝瀧の入った三葉〟ではなく、三葉本人が直接父に頼みに現れます。
映画ではその後彗星が糸守町に落ちる様子が描かれています。
そしてその後の展開では住民を避難させることに成功し、ほとんどの人が奇跡的に助かったということがわかります。
ニュースやその時の記事では、なぜ事前に彗星が落ちることがわかったのかという謎が残っていますが、これは宮水家の成した技ということになります。
(三葉と瀧が入れ替わりを起こすことによって町を救った)
ではなぜ三葉は町長である自分の父親を説得することができたのか。
『それは君の名は。アナザーサイド・アースバウンド』という本に詳細が書かれてあります。
こちらの本では瀧、勅使河原、四葉、宮水俊樹の四つの物語が書かれています。
その四つ目の物語が三葉の父である宮水俊樹についてです。
三葉が乗り込んできた時に俊樹がどんなことを思ったのかから始まり、その後三葉の母親であり俊樹の亡き妻である二葉との出逢いから死までの追憶の中へと落ちていきます。
ここは映画では描かれていないところです。
この俊樹のストーリーのタイトルは『あなたが結んだもの』ですが、君の名は。本編よりも美しいといっても過言ではないくらい、とても神秘的で奥深いストーリーです。
二葉との出逢いや結婚に至るまでの過程、一葉との関係、父である俊樹はなぜ幼い三葉と四葉を置いて宮水家を出たのか、三葉が現れ住民を避難させるまでの様子が書かれています。
ここで大事なのが俊樹は二葉の事をこれ以上にないくらいに愛していて、そして三葉のことも四葉のことも大事に思っており決して捨てたわけではないということです。
むしろ宮水神社から救おうと思っていた。
俊樹は助けられる可能性のある病気で二葉が死んでしまったのは、宮水家の独特の古来から受け継がれる現代にはそぐわない風習のせいだと結論付け、その町全体の空気を変えるために町長になった。
だから、最初に目の前に三葉(瀧の入った)が現れ、彗星が落ちるなどとわけのわからないことを言った時には「また宮水家の悪いのが出た」と言った具合に強い憎悪や嫌悪が出てしまったのですね。
しかしその三葉が三葉ではないことに気が付き、その後二葉のことを思い出しているうちに犬猿の仲で自分の目の前には現れるはずもない一葉が自分の元に現れたことで、事態が深刻なことに気が付きます。
そしてその後に本物の三葉が現れるのですが、その三葉の姿を見たときに俊樹は一瞬で気が変わり、住民を避難させたという流れになります。
俊樹は目の前に現れた三葉に一体何を見たのか。
二葉が死ぬ前に俊樹に残した言葉があります。
「これがお別れではないから」
俊樹は三葉の顔を見たときに、その言葉の意味をやっと理解し、三葉が言葉を発する前に何を訴えに来たのかもすべてを理解したのです。
なぜすべてを悟ることができ、すべてが結びついたのかは、宮水俊樹のストーリーを全部読むことによって腑に落ちるのではないかと思います。
二葉が死んでしまったこと、その結果二葉の最後の言葉や宮水家を否定し町長になったことも、すべて「あるべきところに自然に導かれる」といった二葉の言葉通りだったということを三葉の顔を見た瞬間に悟ったのです。
とても短いストーリーではあるのですが、内容が濃く深く、そして頑固で嫌なイメージのあった宮水俊樹がどんな経験をしてどんなことを思ったのか、ということがわかります。
元々民俗学者であった俊樹は、理論立てて物事を捉えようとするタイプの人間で宮水家や糸守町の人々(主に年寄り)の特に理屈はないけど二葉の言ったことはどこか神秘的で絶対だという考え方への嫌悪が二葉が死んだことによって憎悪に変わってしまったのです。
しかし「理屈を超えた直感」という言葉が出てきますが、結局はやはり二葉が正しかったのだという結論に行きつきます。
この『あなたが結んだもの』の話では二葉と俊樹が出逢う前に入れ替わりを起こしていたと感じさせる描写や、宮水神社の成り立ちについての俊樹の仮説や二葉の考えていることなどが詳細に書かれており本当に面白いです。
私は日本の神話についてほとんど無知であったのですが、調べながら読んでいると尚更深い。
君の名は。をより深く理解したい方はぜひ一読を。